元力士 大岩戸(上林義之氏 )にお相撲さんの世界のこと訊きました part2
2011-10-06
- Category : ・Q&A
Tag :
フェンシング競技、女子フルーレ日本代表
2024年パリ五輪で金メダルを狙い競技活動中の梅津春香さんです
Q:・取組の前日は何をしていますか?
大相撲は1場所15日間という長丁場なスケジュールです、1日で終わるトーナメントの試合と違い、コンディションをずっと保つのが大変です。本場所中も朝稽古はやります、そのかわり場所前の追い込む時期と違い軽めにやって終わります。軽めとはいえ、毎日続けることが大事で、鍛えるというよりは感覚を忘れないようにという意味でやってました。どのスポーツにも言えますが、大事な試合の前日は何も手につかないと思います。緊張してきついと思います。だけどじっとしてると余計なことを考えてしまうのが人間です。
だから、普段あまりかけ離れていないことであれば体を動かしてるとむしろ余計なこと考えなくて済むと思います。 じゃあ何をすればいいか?試合前日も家にいるのであればゲン担ぎでトイレ掃除してみたりとかですね。トイレ掃除すれば勝てるというのはありません、でも思い込みは個人の自由だし、普段おっくうでも、試合の緊張よりマシだと思えば楽しく感じるし、何より自分が掃除をすることが誇らしくなります。プラストイレもキレイになれば一石二鳥、いいこと尽くめですよ。ただ、これだけは極力避けた方がいいのは、寝れないとか落ち着かないとかでスマホやテレビを見過ぎないことです。体が程よく疲れ睡眠欲が出ても、脳が覚醒してしまいます。前日の貴重な時間もあっという間に過ぎていきます。そこは気をつけた方がいいのではと思います。
当日の朝は何を考えたり思っているのかを教えてください。
淡々と普段通りにしてます、特別なことはしません。現役生活をして感じたことは、その日勝てるかどうかは既に体がわかってるような気がします。なぜ緊張するかというと、結果がまだ出てなく、未来が予測できないから。本当は勝つとわかってるのに人間の弱さである、負けたらどうしようって心理が働くんです。
私なんか場所入りする時の歩いてる時点でその日の結果が予測できました、足に力が入らないんです。そんな時は土俵に上がっても、相手の体が大きく見えるんです。そんな時はやっぱり負けます、ほぼ100%です。だから、当日はもうなるようにしかならない、全て受けたもうという気持ちでいること。そのかわり、普段の練習で目一杯取り組むことです、奇跡はないです。勝つ人はそれだけ練習積んできたというだけです。
Q:・負けや勝ちが続いたときにどう意識していますか?
勝った時はあまり考えないです。内容とか拘らなければいけないけど勝負ごとは勝ってなんぼです、内容が悪かったら場所が終わって次の稽古が始まった時考えます。負けた時はその日は考えます、負けには必ず意味があると思っています。相撲は滑って誤って手をついただけでも負けになりますが、それでも意味があります。体調万全な時でも、それによって気持ちに驕りがなかったかなという感じで。失敗をただの失敗で終わらすのではなく、糧にしようと心がけてました。
Q:・土俵に上がった際に観客が気になることはありますか?
最初は気になりました。大学時代にあれだけの数のお客様の前で相撲を取ったことはなかったので。お客さんはざわつき、ビールを運ぶ瓶がガチャガチャ鳴る音まで聞こえます。嫌がったらところでどうしようもない、受け入れるしかないんです。会場全体も自分の体の一部だと思ってました。あの広い会場を包み込む感じです。そうすると、イライラがなくなりなんでも受け入れる心の受け皿が出来るような気がしました。
現役時代の大岩戸
Q:・稽古はどのようなことをしていますか?
まずは基礎をしっかり、相撲でいえば四股、すり足、テッポウです。詳しくは別の機会に譲りますが、相撲の土俵は土の表面に砂を撒いた状態の上で競技します。滑って物凄く不安定です。なので、相撲の基本をトレーニングジムで鍛えることは出来ません。安全性重視で、ゴムマットの上をシューズを履いて行う、インストラクターがいる、マシンを使いやすいように設計、全て真逆です。相撲の基本は相撲でしか鍛えられないのです。それから、相手と相撲を取る稽古も大事です、直接ぶつかって、肌で圧力を感じることによって、感覚を養い、耐久性を身につけます。そして、最後に仕上げのぶつかり稽古です。何回も何回もひたすら相手にぶつかっていき押す稽古です。息が上がって動かなくなると転がされます、このフラフラな状態で転ぶから受け身が上手くなり怪我の防止に繋がります。そして息が上がって心拍数が上がることで、本番での緊張感に似た感覚をシュミレーションできます。こうして、力士は体が強くなっていきます。
Q:・部屋での稽古の雰囲気はどのようなものですか?
入門した頃は活気もあって、ピリッとした雰囲気があってよかったです。その日目立って絶好調な力士は親方の指令でしごかれますか、きついのは嫌だけど選ばれるのは名誉なことでした。
Q:・ ピリピリした緊張感はありますか?また、お相撲さんどうしで教え合ったりしていますか?
ピリピリした緊張感はありますか?また、お相撲さんどうしで教え合ったりしていますか?
今の時代緊張感がないです、厳しくすると問題になるからです。確かに根性論は反対だけど、なぜ厳しくするのか明確な説明ができれば弟子もちゃんと稽古するはずです。
お相撲さん同士で教え合ったりというか、目上の先輩にはよく指導していただきました。けれども、丸々全部聞くというスタンスを取るとスランプに陥ります。何故かと言えば、その先輩と自分は全くの別物。その人が良かれと思ってることが自分に当てはまってるとは限らないからです。なので話を聞く時は、自分の本来のスタイルはこうなんだとアイデンティティをしっかり持った上で参考程度のレベルで聞く、それを噛み砕いて自分のスタイルにプラスアルファになるなら取り入れればよろしいのではないでしょうか?
お相撲さん同士で教え合ったりというか、
Q:・苦手意識をしていた力士はいましたか?また、苦手な相手との対戦で何を思いますか?
苦手はいましたね、何をやっても勝てない。けれども、結局それは自分でそういう空想を思い描いてしまってるだけなんです。考えて手を尽くしても苦手なのなら、シンプルにいくとそれまでの苦手が嘘のように普通に勝ってましたね。そしてこれは心理戦ですが、向こうは得意と思っていてもいつか負けるんじゃないかとか、コイツ何かイレギュラーな技仕掛けてくるんじゃないかとか意外と悩んでるものなんです。そこを逆手に取るのもいいんじゃないですか?
Q:・大岩戸さんが相撲を通して学んだことは何ですか?
相撲はスポーツでもあるし、神事でもあり、興行でもあります。ただ相撲で勝てばいいのではなく、力士としての振る舞いも要求されます。そして、応援してくださる方との人付き合いも大事です。華やかな世界なので、誘惑もあります。自分を律する心が多少緩んだ時に誘惑をしてくる人間に出くわしたりします、相撲も仕事も一緒で数字取ればいい、銭稼げばいいのではなく、信頼関係を築く大切さを学びました。
Q:・忘れられない取組はありますか?
全部忘れわれません、質問に答えないかもしれないけどよく言ってるのが師匠の八角親方にぶつかり稽古で胸を借りたことが1番の思い出です。引退10年経つから、体も痩せて軽いんです、でも気迫があって、魂がこもってるからこっちは圧倒されてすぐ息が上がるんです。あれは本当に嬉しかったです。
Q:・相撲をやってきて良かったと思うことはありますか?
小学生から相撲を始めて、皆んな放課後や休みの日に遊んでるのに、練習や試合ばっかりで本当嫌でした。けれどもアマチュア、大相撲と27年相撲のやって、色んなところに行けて、沢山の人に出会いました。小さい時に辛い思いをした分、普通の人には経験できないことを沢山できたのでやってて良かったと思います。
Q:・現役時代に「もっとこうしてれば良かったな」と思うことはありますか?
多々あります、例えば相撲の基本の四股なんかは引退してその重要さに気付きました。もっと徹底的にやっておけばと思います、だから1日をどのように過ごすかを現役のアスリートさんは徹底的にこだわった方がいいです。
Q:・お相撲さんは恋愛をして強いor弱くなるなど、勝負に影響することはありますか?
恋愛して、強くなる場合と弱くなる場合両方あります。こればっかりはお互い最初は本性もわからないからどうしようもないけど、一つ言えることは、自分のメンタルがちょっとおかしい時とかに出会った人はやはりご縁はないと思います。しっかりと気が満ちてる時に出会う人とはいいご縁になるような気がしてなりません。
Q:・練習と本番で取り組む意識や感覚の差はありますか?
相撲界では、昔の人が「稽古は本場所のように、本場所は稽古のように」という言葉を残しております。稽古場では本番のように緊張感を持ち、本番は稽古場のように緊張せず力を出し切るという意味かと思います。私は理屈は簡単でもこれが難しかったです。腰を大怪我したあと、復帰の場所で身体中のサポーターやテーピングなど全て外しました。補強をすることで、どこか慢心してたのと、体に対してしっかり耳を傾けていなかったからです。怪我しないように保険をかけていたようなことが、結果的には腰の怪我に繋がってました。テーピングをしないのはとても怖かったです、けれども全身から満遍なく体に緊張感が染み渡り、逆に集中力が増しました。動物も自然の中ではいつ襲われるかわからない緊張感を持って生活してると聞き、人間も生き物の一種だから少しでも動物の研ぎ澄まされた感覚に近づけようとした結果、サポーターなどを外しました。相撲は見せるスポーツでもあるので、テーピングのしてない体はテレビ写りもよかったそうです。
Q:・立合いでは、相手のどこを見て行うのですか?何かコツがあるのですか?
どこか一点に集中すると、別の部分が疎かになるので相手の全体に満遍なく圧力をかけるといった感覚で当たっていきました。コツは先述した、会場の雰囲気と一体化することと似ていて、相手の体も自分が包み込んでしまうような気持ちでいました。そうすると自分の中でコントロールしているような感覚になりました。勝てるときはどんなに大きな相手でも包み込むことができたけど、やはり負ける時はその感覚はつかめなかったですね。
今回のインタビュアープロフィール・・・・・・

フェンシング競技、女子フルーレ日本代表
安全自動車株式会社所属
「全ての出来事に自分を成長させるチャンスがある」の信念で日々奮闘中
自身の気づきをブログで日々発信中
回答者プロフィール・・・・・・・・・・
OfficeOōiwato(オフィス オオイワト)代表 上林義之/YOSHIYUKI KAMBAYASHI
小4から相撲を始め、近畿大学四年時の2003年第81回全国学生相撲選手権大会において、個人・団体の二冠を達成。2004年3月大相撲八角部屋に入門、同3月場所幕下15枚目格付出でデビュー。最高位東前頭16枚目(2013年三月場所)、関取通算24場所務める。2017年5月場所、戦後最年長記録である36歳0ヶ月で幕下優勝。2018年5月場所前に引退。アマチュア相撲・大相撲と27年間相撲の世界に携わり、その経験を活かして相撲の素晴らしさを世に伝えることを信条とする。現AbemaTV相撲解説者。
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