小磯直樹先生「身体操法研究」講習会開講に寄せて武術研究家 甲野善紀先生からのメッセージを紹介します
2020-06-12
- Category : 講師メッセージ
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そして、単にアシスタントとして参加というだけではなく、小磯院長は自身で研究開発した様々なトレーニング法を使って、中学校や高等学校のバスケットボールやバレーボール、ソフトボール等々のクラブ活動の部員達に、身体の使い方のアドバイスと指導に出向き成果を挙げられている。
したがって、現在も何か講習会等がある時、アシスタントとして誰かに同行を依頼しようと思う時、最優先で思い浮かべる2~3人の人達の中に小磯院長は常に入っている。特に柔道やレスリングといった場合は、柔道家でもある小磯院長はまず最初に思い浮かぶ。
また、この小磯院長は私が月に2回夜間飛行から配信されているメールマガジンの動画解説の中で、私の技を受けている人物として、この動画を撮影してもらっている田島大義氏と共に、その登場回数は大変多い。この事実をもって明らかだと思うが、小磯直樹氏は、私が私の武術の研究をしていく上で、最も信頼している研究協力者の一人である。
私は私の武術の研究のための研究稽古をする相手として、私の研究に大いに協力し、いろいろと有益な気付きをもたらしていただいている人達に「松聲館技法研究員」を委嘱しているが、小磯氏にはこの「松聲館技法研究員」を委嘱していない。普通に考えれば、小磯氏の人柄を信頼し、その研究と工夫も評価しているのだから当然「松聲館技法研究員」を委嘱しているところだが、諸事控えめで目立つことを好まれない小磯氏に、この役職を委嘱することに何となく躊躇があったまま年月が経った。
そして、ある時、思いがけず「『松聲館技法研究員』という人達の中から、松聲館の武術の後継者が生まれるらしい」という噂話を聞いて驚き、それからは、小磯院長に「松聲館技法研究員」を敢えて委嘱しない事に決めた。その理由は、当然「松聲館技法研究員」という役職を委嘱されて不思議ではない小磯氏が委嘱されていないことで、この役職に妙な権威性が生じないようにしたいと思ったからである。
あらためて確認しておきたいが、「松聲館技法研究員」はあくまでも私個人の武術の研究のために少なからず協力いただいている人達に私が委嘱しているものであり、私の武術はあくまでも私個人の武術であって、私の武術に触れ、それによって武術に関心を持ち、稽古を深めていこうとしている人達は、すべてその人自身の武術の開祖になるようにしてほしいというのが、私の考え方である。
したがって、私の武術は私一人のものであり、これを下敷きとし、また参考に各自が自分のスタイルを創り上げていくのが「松聲館スタイル」とか「松聲館方式」と呼ばれているもので、この指導法が私の武術の特色となっている。これは武術・武道に限らず、習い事一般の中ではかなり特殊かもしれない。
なにしろ世の中には、何でもその資格や地位等によって、人の格付けをしたがる傾向のある人が少なからずいるため、「松聲館技法研究員」という役職は、私の所のように段位とか目録といった格付けを行なっていない場合、そうした格付けに代わるものとして見られる事があるからだ。もちろん、この「松聲館技法研究員」は、それなりの実力と研究心のある方に私から委嘱するもので、実力を伴わない人物は一人もいないのだが、この「技法研究員」を委嘱していない人にも、「私が深く信頼している、実力も指導力もある人が存在する」という事実を示すことで、この役職が妙に特別視されないように私はしたいのである。
つまり小磯直樹氏は「松聲館技法研究員」という役職が、いたずらに権威化しないために、この役職(称号)が本当にその人の実力と研究心の深さを表しているものである実質を守るために、この役職の委嘱を行なっていないのである。何だか回りくどい説明になってしまったが、私が小磯直樹氏・こいそ接骨院院長の実力、研究心、人柄を深く信頼している事だけはご理解いただけたかと思う。
上達論 (共著・方条遼雨)(2020年 PHP研究所)他多数